治らない根っこの治療に対するアプローチ
こんにちは。目黒まついデンタルクリニック院長松井優人です。
今回は「歯根端切除」についてご説明したいと思います。
根っこの治療で針でぐりぐりやられても、いっこうによくならない、または一度根っこの治療をしたけども再度膿がでてくるというパターンは多々見受けられます。もちろん上からの根っこの治療には限界があります。根っこの治療、通称根管治療はやはり菌との戦いで、どんなに予防したとしても結果として感染が強い場合せっかく治療したとしても再感染や再治療を要する場合があります。
その場合治療が不可能で抜歯しないといけないかというと必ずしもそういうことではなく、治療の次の方法として「歯根端切除」が挙げられます。
歯根端切除とは
歯根端切除とは、根っこの先の悪くなっている部分を外科的に切除し、膿を改善していく治療のことをいいます。非外科的な根管治療を行なっても症状が改善しない場合には、感染が残存している部分を外科的に取り除く処置(抜歯など)が必要となります。そうしないと膿が広がり、例えば上顎であれば上顎洞のほうまで膿が侵食し、歯性上顎洞炎(蓄膿症・副鼻腔炎)の可能性がありますし、ほかの歯に侵食することでほかの歯が失活してしまうあるいは支えている骨までも溶かしてしまう可能性があります。もちろん抜歯も1つの選択肢になりますが、すべてを抜くのではなく、感染している1部分を除去することで症状の改善を目指すことがこの歯根端切除の大きな目的になります。
なぜ一度治療した後でも再発してしまうのでしょうか。まず1つの理由として、根っこの先3mm部分には、側枝といわれる毛細血管が発達しており、単純なまっすぐな神経というのは存在しません。この部分を上からの根管治療のみで完全に無菌化することは不可能である考えられるので再発してしまいます。
2つ目に被せものの精度が考えられます。被せものと自分の歯に隙間がある場合辺縁漏洩をおこし、その隙間から感染し、根っこの先にたまってしまいます。
3つ目に根の先のさらに外に膿や感染が広がり、根管内からのアプローチが困難な場合があるため再発してしまう可能性があります。
このような場合に「歯根端切除」を選択することがあります。ただすべてを歯で適用になるわけではなく、大臼歯部には適用にならないことが多いです。なぜなら大臼歯部は根っこが複数あり、アプローチが困難な場合があるからです。
歯根端切除のメリット
1今入っている被せものは傷つけずに根っこのなかだけのアプローチができる
2抜歯する以外に根っこの膿が除去できるので抜歯が回避できる場合がある
31回の治療で終わる
4上からのアプローチが困難な場合に直接的に状態の確認ができる
歯根端切除のデメリット
・外科手術なので術後の腫れ・痛みが生じる
・かならず治るというわけではなく、再度感染が強いと症状が出る可能性がある
・すべての症例に対応ではない。特に奥歯の深いところでは器具が到達しないので、対応不可になる可能性もある。
歯根端切除の適応症
☑根っこの治療をしているが歯ぐきの腫れや痛みなどの症状が治らない場合
☑根っこの治療をしたが病巣の影が消えない、膿が再発してしまった場合
☑根が曲がっている・根管がつまっているなどで、上からの根管治療ができない場合
☑歯の土台が長く太く入ってしまっており、上からの根の治療だと外す必要があり、その場合、歯が割れてしまう危険性がある場合
☑セラミックなど被せ物のクォリティが高く、外したくない、あるいは外す必要がない場合
☑一度、歯根端切除術を行ったが再発してしまった場合
歯根端切除術の術式
1浸潤麻酔
まず麻酔を手術部位におこないます。基本的には部分麻酔ですが、歯科診療においての怖さがあるなどという患者様は静脈鎮静法での歯科治療も目黒まついデンタルクリニックでは選択可能です。
2切開・剥離
歯ぐきを切開し、剥離し、治療部位の根っこと骨の状態を確認します。もちろんやみくもに切開するのではなく、術前に3次元CTを撮影することによって、膿んでいる場所、根っこの形や向きを確認します。切開量は術野が狭くならないように、ただ開けすぎると歯茎が下がる原因になるので適度に、術前にシミュレーションをおこない、治療に臨みます。
3根尖病巣の摘出と根尖部切除
歯ぐきを剝離したのち、根っこの先の膿の状態を確認します。膿に関しては、ひと固まりで摘出できるように、取り残しがないように慎重に骨からはがしていきます。このとき根っこが割れていないか、また前の根っこの治療のお薬が飛び出ていないかなど、根っこの先に単純に膿がある以外の要因があるのも確認します。もちろん術や自体は狭いので、マイクロスコープやルーペを使い、強拡大しながらしっかりとみていきます。
しっかり確認のち、根っこの先から数mm程度切除していきます。歯軸に対して垂直に切断していきます。切断するときにもちろん亀裂を与えないことがたいせつです。そのあと肉芽組織という膿の炎症部分をしっかり取り除きます。
4逆根管形成と逆根管充填
ただ切断し膿を取り除くだけでは100%とは言えないので、通常の根っこの治療とは逆側つまり根っこの先からきれいにしていきます。超音波のチップで逆側から感染部分を取っていきます。またその後、綺麗にした部分にMTAセメントやスーパーボンドを用いて封鎖していきます。その後場合によっては膿によってなくなっている骨を補填していく場合もあります。
5縫合
あけた歯茎のところをしっかりと縫っていきます。1-2週間程度で糸を取っていきます。痛みとしては当日から3日ほど出る場合があるので、しっかり抗生物質と痛み止めを処方し、飲んでいただきます。
最後に
もちろん歯根端切除だけですべての症例が治るわけではありません。ただ抜歯してしまうのは簡単ですが、抜歯しないで残せるチャンスの1つがこの「歯根端切除」になります。もちろん抜歯が第一選択になるようなケースは多々ありますし、その歯の状態によって診断は大きく変わってきます。抜歯しないとほかの歯に影響が出てしまうケースもあります。ただ無理に抜かないでその歯の可能性にかけるための1つのツールがこの「歯根端切除」だと考えています。
目黒まついデンタルクリニックでは、滅菌管理をしっかり行ない、歯科用3次元CTとマイクロスコープを完備することにより、より精密に診断できる体制を整えております。
まずは現状把握からしっかりと行い、もし歯根端切除の必要があるならばどのようにアプローチするのかシミュレーションすることがとても大切です。